辛さで
しぼる

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モトキ編集長

3.49KMモトキ編集長

日本全国、激辛リーダーと行く逝く!京都激辛商店街の「しゃっくり」担担麺

日本全国、激辛リーダーと行く! 京都激辛商店街の「しゃっくり」担担麺

激辛の聖地は京都にあり

断っておくが、京都激辛商店街をナメていたわけではない。しかし、これほどまでとは思わなかった。帰りの新幹線が、あんな苦しいものになるなんて……。

「激辛の首都」と名乗りをあげる京都激辛商店街は、向日市の飲食店を中心に編成された、いわば「仮想」商店街である。「激辛料理を提供する店が商店街に集中している」のではなく、激辛料理による町興しに賛同し、京都激辛商店街に入会した店舗の総称、というわけだ。

ぼくにとって、向日市は憧れの地であった。だって、あの店にも、この店にも、自慢の激辛料理が存在するのだ。滞在が許される3時間ほどの間に、何軒回れるだろうかと夢想しながら聖地へと向かった。

お昼時に最高顧問の磯野勝さんを訪ねると、「さっそく第1回KARA1-グランプリで優勝を勝ち取った『麒麟園』の坦々麺を食べながら話をしよう」と相成った。

しゃっくりを誘発する担々麺

麒麟園の担々麺のスタンダードな辛さは「2辛」で、最高が「5辛」である。

「5辛を食べきった人じゃないと、それ以上は注文できません。実は10辛まであるんですけどね」

磯野さんの微笑みに、なんとなく「5辛」を選択してしまう。まだ、辛メーターのリリース前のことだから、当然ながら、5辛が何KMかはわからない。でも、まあ、言い方は悪いが、所詮、担々麺である。これまで食べた履歴を脳内で検索し、「大丈夫だろう」と判断した。

料理が来るまでの間、よもやま話。磯野さんは、そもそも辛いものが好きだったんですか?

「いや、恥ずかしながら、全然、だめだったんです。それでも、試食などで食べ続けましたから、今はずいぶん食べられるようになりました。まあ、でも好んでは食べません。というのも、辛いものを食べると、しゃっくりが止まらなくなって……」

激辛商店街の最高顧問が「しゃっくり」である。申し訳ないが、ぼくは笑いをこらえていた。それはお気の毒なことだな、と。偉い人なのに、しゃっくりって(くすくすくす)。

来た。これが「5辛」の担々麺である。濃いオレンジ色のスープはレンゲですくうと、ねっとりと重たい。一口すする。味噌の甘みの奥から、来たぞ、来た。辛味はすぐに痛みとなって、口中を燃やす。そして……

しゃっくりだ!

いやいや、しゃっくりが出るのは磯野さんのほうで、ぼくではないはずだ。前を見ると、麻婆豆腐の2辛を注文した磯野さんもしゃっくりに苦しんでいた。

中年男性2人が中華店のテーブルで向き合い、互いのしゃっくりを観察しているシーンは、なんとも滑稽だが、ぼくたちに笑う余裕はない。

水を飲んだり、天を仰いだり、息を止めたりして、なんとかしゃっくりを止めて、さらに食べ進める。痛い。痛い。箸が止まる。汗が噴き出す。鼻水がたれる。涙がにじむ。ぼくの辛ジャッジでは4.3KM。完食は無理なレベルだ。

火を吹く男

なんとか麺だけは食べきったが、スープは半分残した。店主に話を聞くと、5種類の唐辛子を使い、その中にはブート・ジョロキアも入っているという。これまで約8000人がチャレンジし、スープまで飲み干したのは200人にも満たないという。

考えてみて欲しい。5辛を1人で食べきろうとする人は、そもそも辛さに強いという自負を持つ人であろう。そんな、辛いもの好きのうちで、クリアできたのが、わずか2.5%なのである。自称猛者の中の2.5%。これ、ほとんどの人が食べられないレベルと言って過言ではない。

やられた。カレーも食べるつもりだった。から揚げや餃子も狙っていた。でも、もう無理です、すみません。この一杯で、ぼくは完全に戦意を喪失したのだった。

20店での船出は撃沈

激辛商店街が20店舗でスタートしたのは、2009年のことだ。それまでの向日市は京都市の近くに位置しながら、いやむしろだからこそ、「よそから人が訪れない町」だった。西日本で一番小さな市。竹や筍の里であり、ならばと「竹馬全国大会」を開催したりしたが、当然ながら(失礼!)鳴かず飛ばずだった。

商工会の青年部に所属していた磯野さんは考えた。カレーはどうだろうか。調べてみると、カレーで町興しを図っている自治体は山ほどあって、まったく勝てる気がしない。そのとき、ふとカレーからの連想で「激辛」というキーワードが浮かんだ。

よし、これならば競争相手は少ない。「この指とまれ」と飲食店主10人に声を掛けたところ、賛同者はわずか2人だった。しーん…………。でも、磯野さんはめげなかった。地道に20店を集めて、開いた試食会。自慢の激辛料理を辛い物好きのモニターに振る舞った。結果……

「今日、この場に辛い料理はひとつもありませんでした」

そう評価された。全店、撃沈である。それから、「やるからには、辛い物好きが唸るような辛さの料理を提供する」と決めた。

「実際、ここ激辛商店街には、麒麟園の担々麺5辛より辛い料理はいくつもあります」

しゃっくりとしゃっくりの合間に、磯野さんはさらりと語るが、あのぉ、おっしゃっていること、ものすごく怖いことですからね。

激辛商店街、今では約70店が参加するまでになった。飲食店を中心に、ベーカリー、和洋菓子店など食品を販売する店のみならず、「赤い染みをすぐにとるサービスを提供するクリーニング店」や、「ブート・ジョロキアの種苗を提供する生花店」、「物件の弱点を辛口コメントで正直に告白する不動産店」など、激辛の輪は確実に広がっている。

2012年には「旨くて辛い料理」を競う『激辛グルメ日本一決定戦 KARA-1グランプリ』を開催。磯野さんは当時を思い出して目を細める。

「最初はすべて手づくりで大変でした。それでも全国から辛い料理自慢の店舗が集まってくれて、目標の1万人の倍、2万人の来場者があって大成功でした」

2019年の「KARA-1グランプリ」は、なんと1日で12万人を集客。6万人も満たない町に、人口の倍以上の人が訪れたわけだ。このイベント以外にも、激辛料理を求めて向日市を訪れる人は、年間約20万人にのぼる。観光客ゼロの町は、激辛料理によって生まれ変わったのである。

地獄の帰路と激辛ドーナツ

一緒にしゃっくりまで出してもてなしてくださった磯野さんに別れを告げ、JR向日町駅までの300メートルほどの道を歩く。実は先ほどから上半身が痛い。そう、胃が痛いとか、そういう生易しいものではなく、胸も横腹も、もう全体が痛い。「上半身は筒型をしている」という事実を思い知る時間である。

コンビニで240グラムの飲むヨーグルトを2本買って、店の前でむさぼるように飲みきると、ほどなくして痛みが緩和される。再び歩き始めるが、しかしまたもや痛みが舞い戻ってくる。ああ、駅が遠い。

なんとか構内の椅子に腰掛け、しばし放心する。うららかな秋の昼下がり、汗だくなのはぼくだけだ。そのあとは新大阪行きの電車に揺られ、博多までの新幹線に乗り込むと、尾籠な話で恐縮だが、何よりまずトイレに座った。ええ、そこに座ったまま、新幹線は新大阪を発つ。

ヨレヨレと座席に戻る。飲み物は缶ビール……ではなく、もちろん牛乳だ。額ににじむ汗を拭く力もなく、浅い呼吸を繰り返している姿は、ほとんど病人である。徳山で再びトイレへ。これで、どうにか落ち着いた。その日、晩御飯を食べることはできなかったけれど……。

翌日、「山下とうふ店」で買った、「激辛豆乳ドーナツ」にチャレンジしてみた。

いや、本当は避けたかった。避けたかったけど、せっかく買ったし、辛ジャッジしたかったし、昨日の恐怖をなんとか拭って一口。いやあ、「何人も病院送りにした恐ろしいドーナツ」(磯野さん)という評価は、大げさでも脅しでもない。3.8KM、これも軽々しく手を出してはいけないレベルだ。

その後、ぼくの体がどうなったかは、もう書くまい。でも、はっきり言っておく。あなたは激辛商店街を絶対に、絶対にナメてはいけない。

麒麟園
京都府向日市寺戸町東田中瀬5-54
075-933-1370
営業時間11:30~14:0016:30~23:00(22:30ラストオーダー)定休日 火曜日

山下とうふ店
京都府向日市寺戸町小佃19 ライフシティ東向日 1F
075-922-5598
営業時間10:00~20:00
定休日 木曜日

[文・撮影/編集部・モトキ編集長]

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